~犬が笑うから~
理事長 宮下めぐみ獣医師
犬と暮らしている方なら、一度は「今、この子は笑っている」と感じたことがあるのではないでしょうか。
嬉しい時には口元が緩み、目がやわらかくなり、しっぽを大きく振る。
反対に、不安な時には表情が曇り、怒りや緊張を感じる時には顔つきまで変わります。
近年の動物行動学では、犬は人の表情を読み取る能力に優れており、人の感情に呼応して自らの行動や表情を変化させることが分かってきました。
私は10歳になるチワワと暮らしています。
その姿を見ていて感じるのは、犬が最も幸せそうな表情を見せるのは、ごはんの時でも、お散歩の時でもないということです。
それは、家族が穏やかに笑っている時です。
飼い主が楽しそうに会話をしている時、安心してくつろいでいる時、愛犬は少し目を細め、こちらを見つめながら、とても満たされた表情をしています。
まるで、「あなたが幸せなら、私も幸せだよ」と伝えてくれているかのようです。
実際に、犬と人との間には「オキシトシン」と呼ばれるホルモンが深く関わっていることが知られています。
麻布大学の菊水健史先生らの研究では、犬と飼い主が見つめ合うことで双方のオキシトシンが増加し、その絆がさらに強まることが報告されています。
また、犬が再会時などの強い喜びを感じた際に涙の分泌が増えることも発表され、大きな話題となりました。
犬は、私たちが思っている以上に、人の気持ちに寄り添って生きている動物なのかもしれません。
しかし、犬との暮らしには楽しいことばかりではありません。
病気や介護、しつけの悩み、別れへの不安…。
愛犬の体調が優れない時には、飼い主自身の笑顔が少なくなってしまうこともあります。
そんな時こそ、獣医療を頼ってほしいと思います。
病気を治すことだけが獣医療ではありません。
痛みを和らげること、食べる喜びを守ること、穏やかな時間を増やすこと。
そして、動物とその家族が少しでも笑顔で過ごせる時間を支えることも、獣医療の大切な役割です。
一般財団法人どうぶつ福祉a-handsは、「動物の幸せは、人の幸せと切り離せない」という考えを大切にしています。
人が動物を守り、動物が人の心を支える。その双方向のつながりがあってこそ、真の動物福祉は実現すると考えています。
犬が笑うから、人が笑う。
人が笑うから、犬も笑う。
その優しい循環を少しでも増やしていくことが、私たち一人ひとりにできる動物福祉なのかもしれません。
今日、愛犬があなたを見つめていたら、ぜひ笑いかけてみてください。
きっと、その子も笑い返してくれるはずです。
