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多頭飼育下での感染症対策と実践的な管理法
獣医師:箱崎 加奈子
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保護活動を行っていると、どうしても多頭飼育の状況が避けられないことがあります。
一時保護やレスキューの現場では、限られたスペースの中で複数のどうぶつを受け入れる必要があり、その中で感染症のリスクと日々向き合っています。
今回は、これまでの経験をもとに、多頭飼育下での感染症対策の基本から、現場での実践的な管理法までをお伝えしたいと思います。
感染症は、どれだけ対策を行っていてもゼロにすることは難しいですが、できる限り広げないための工夫は積み重ねることが可能です。
感染症の発生事例から学んだこと
これまでにさまざまな感染症の発生を見てきました。
◉ パルボウイルス:離乳前の子猫を保護し、発症。治療を行いましたが、兄弟のうち発症しなかった1頭以外は残念ながら亡くなってしまいました。
◉ 真菌感染症 :レスキュー時に既に感染していたケースがあり、その後の環境変化によって悪化。すでに保護していた別のどうぶつにも感染してしまったことがあります。
◉ コクシジウム :複数頭を一緒に管理していた際、トイレの共有によって感染が拡大。
◉ 猫風邪 :保護当初の環境の変化や、譲渡会参加といったストレスの影響で発症することが多く、非常に注意が必要です。
これらの経験を通じて、単なる知識だけではなく、現場での工夫がいかに重要かを痛感しました。
保護活動における感染症の発症は他にもあると思いますので是非共有頂けますと、今後の学びとなります。
隔離と初期チェックの徹底
新しく保護したどうぶつは、最低2週間の隔離期間を設けています。
この期間中に行うことは以下の通りです:
◉ 寄生虫の駆除・検査
◉ 体調・行動の変化のチェック
◉ 状況によってはウイルス検査
可能な限り1頭ずつのケージで管理し、同じ空間に複数頭を置かないようにしています。
ただし、実際にはケージの数やスペースに限りがあるため、すべてのどうぶつを完全に隔離できない現実もあります。
また、どうぶつのQOL(生活の質)を考えると、完全な隔離はストレスの原因にもなります。
感染症対策とQOLのバランスをどう取るかは、常に悩ましい問題です。
出るときは出る:感染症との向き合い方
どれだけ消毒や隔離を徹底しても、感染症は出るときには出てしまうのが現実です。
だからこそ、重要なのは次の3点:
◉ 早期発見 :症状にいち早く気づける体制を整える
◉ 速やかな隔離:感染源の拡大を防ぐ
◉ 治療と対応 :適切な処置を行う
そして、感染症が発生している間は新たなレスキューは行わないという方針を徹底しています。
これにより、院内・保護施設内の他のどうぶつへの感染を防ぎます。
理想は「オールイン・オールアウト」の管理体制ですが、保護現場ではなかなか難しいのが現状です。
それでも「できる限りそれに近づける」意識は大切だと思います。
清掃と消毒の工夫
感染症対策として、消毒はもちろんのこと、水洗い洗浄ができるものを使用し、可能なものは廃棄するという選択をしています。
◉ ケージ・トイレなどは分解・洗浄できるものを使用
◉ タオルやマット類は共有せず、洗濯消毒も徹底
◉ 廃棄できる紙類やペットシーツを使い捨てとして活用
衛生管理を保つには「消毒+物理的な除去」が両輪であると感じています。
協力体制の重要性
保護どうぶつのお世話や管理は複数の人が関わっています。
特にボランティアさんやスタッフの力を借りる場面が多い現場では、全体の知識水準の底上げが大切です。
◉ 症状の変化や行動の異常にすぐ気づいてもらうために、
◉ 感染症について基本的な知識を持ってもらうために、
現場での教育や情報共有を継続しています。
最後に
感染症との闘いは、終わることのない現場の課題です。
ただ、それに対して「万全な対策」を目指すことで、少しでも多くの命を守ることができると信じています。
現実との折り合いをつけながら、できることから一歩ずつ。
このコラムが、保護どうぶつの医療に関わる方々の現場のヒントになれば幸いです。
