「シニア犬が教えてくれる幸せ」

めぐみの想い

執筆者: 宮下めぐみ

公開日:

~シニア犬が教えてくれる幸せ~

理事長  宮下めぐみ獣医師

動物病院で診療をしていると、生後間もない子犬から介護が必要になったシニア犬まで、本当にさまざまなワンちゃんと出会います。

子犬の頃から診させていただいた子が、成犬となり、そしてシニア犬へと歳を重ねていく。
その10年以上にわたる歩みを飼い主さんと一緒に見守ることができるのは、獣医師という仕事ならではの大きな喜びです。

子犬の頃は、見るものすべてに興味を示し、元気いっぱいに走り回ります。
一緒に旅行へ行ったり、公園で思い切り遊んだり。そんなかけがえのない思い出がたくさん増えていきます。

そして、歳を重ねるにつれて歩く速度は少しずつゆっくりになり、長い散歩が難しくなることもあります。
耳が遠くなったり、目が見えにくくなったり、寝ている時間も増えていきます。

それは決して「できないこと」が増えていく時間ではありません。

「一緒にいること」そのものの価値が、少しずつ大きくなっていく時間なのだと思います。

シニア犬になると、飼い主さんの後をゆっくりついて歩いたり、そっと体を寄せて眠ったり、以前より甘えるようになったと感じる方も多いのではないでしょうか。

実は犬は、加齢によって視力や聴力が低下すると、信頼している相手の存在をこれまで以上に頼りにする傾向があります。
また、犬は人との間に愛着を形成する動物であり、安心できる家族のそばにいることで心が落ち着き、不安が和らぐことも知られています。

「そばにいてほしい。」

そんな小さなサインを、シニア犬たちは毎日のしぐさで私たちに伝えてくれているのかもしれません。

長い年月を共に過ごした分だけ、飼い主さんとワンちゃんの絆はより深くなります。

若い頃は犬が私たちを笑顔にしてくれました。
疲れて帰宅すれば玄関まで迎えに来てくれ、悲しい日には何も言わず寄り添ってくれました。

そしてシニアになると、今度は私たちが支える番になります。

食事を手伝うことがあるかもしれません。
歩く速度を合わせることもあるでしょう。
介護が必要になる子もいます。

もちろん、その時間は決して楽なものばかりではありません。
認知症や持病との付き合い、看取りへの不安など、飼い主さんの心が揺れる場面も少なくありません。

だからこそ、どうか一人で抱え込まないでください。

動物医療は病気を治療するだけではなく、シニア犬とそのご家族が穏やかな毎日を過ごすためのお手伝いをする場所でもあります。

困ったことや不安なことがあれば、ぜひ私たち動物病院を頼ってください。

私は診療の中で、最後まで愛情いっぱいに寄り添われたシニア犬たちをたくさん見てきました。

その子たちは、歩けなくなっても、目が見えなくなっても、大好きな家族の声やぬくもりに安心し、穏やかな表情を見せてくれます。

動物福祉とは、命を救うことだけではありません。

その命が最期の瞬間まで「あなたと一緒で幸せだった」と感じられる時間を守ることでもあると、私は思っています。

犬の一生は、人よりずっと短いものです。

だからこそ、ゆっくり歩くようになったその時間は、失われていく時間ではなく、お互いの愛情を確かめ合う、とても大切な時間なのかもしれません。

著者について

宮下めぐみ

宮下めぐみ

麻布大学 獣医学部卒業  一般財団法人a-hands 代表理事 株式会社m-hands 代表取締役 東京都獣医師会 理事 ヤマザキ動物看護大学 非常勤講師 キャリアコンサルタント 「どうぶつとその周りの人を幸せにする」を信条とし、西東京市のエルザどうぶつ福祉病院の院長として診療を行う傍ら保護どうぶつの保護譲渡活動や獣医師会の社会的活動に従事している。自身でもチワワのクレア、保護ネコのリム、スイをかわいがっている。
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