― 特別なケアが必要な子にも、特別なご縁がある ―
はじめに
保護活動をしていると、「この子は譲渡が難しいかもしれない」と感じるケースに出会うことがあります。
高齢で持病がある、すでに毎日の投薬が必要な状態、人に馴れていない、臆病で触れない…。
そうした背景を持つ動物たちは、どうしてもご縁が遠くなりがちです。
けれど、だからといって諦めてしまえば、本当に可能性はゼロになってしまいます。
譲渡活動の中で私が強く感じているのは、「ご縁があるかどうかは、最初から決めつけることではない」ということ。
実際に、エイズ陽性の猫や高齢の犬など、譲渡困難と思われた子でも、驚くようなタイミングで素晴らしい家族と巡り会う瞬間があります。
特別なケアが必要な子にこそ、特別な優しさで迎えてくれる人がいる。
それを信じて、丁寧に、誠実に、その子の「今」を伝えていくことが大切だと考えています。
諦めの気持ちは、無意識に広報にも表れる
思うように譲渡が決まらない子を前に、気づかぬうちに「この子は無理かも」と感じてしまうこともあります。
実は私自身にも、そうした経験があります。
ある日、アメリカンショートヘアの女の子を保護しました。保護時は推定2〜3歳。
ですが、かなりの警戒心が強く、6年経った今も触ることもできません。すでにシニアの年齢です。
定期的に譲渡投稿をしたり、譲渡会にも連れて行くこともあります。
でも、正直どこかで「この子は難しいだろうな」と思ってしまっている自分がいて、それが投稿の温度感や行動の頻度に出ているかもしれません。
結果として、これまで一度も譲渡希望のお問い合わせをいただいたことがありません。
もし、本気でこの子の譲渡を目指していたなら。
捕まえ方をもっと工夫したり、毎週の譲渡会に参加したり、紹介文にももっと想いを込めていたかもしれません。
私が「諦めたまま」だったから、ご縁も遠ざかっているのだと思います。
ありのままを伝える姿勢が、信頼につながる
動物病院として譲渡活動に関わる私たちが、何より大切にしているのが「誤解を生まないこと」です。
病気や持病がある場合、希望を与えようとしすぎるあまり、リスクや手間を曖昧に伝えることはかえってトラブルのもとになります。
だからこそ、疾患の内容や毎日の投薬、必要な医療ケアなどについて、譲渡時にしっかり説明した方が良いと考えます。
ネガティブな情報を隠さず伝えることが、結果的に「この子を迎える覚悟がある方」との出会いを生むのだと、感じています。
たとえば、肝臓にしこりがあり、余命1年とお伝えした小型犬がいました。
その子を迎えてくださったご家族は、「それでも、この子と一緒に暮らしたい」と言ってくださいました。
そしてその子は、譲渡から2年以上経った今も、元気に家族のもとで暮らしています。
未来は誰にもわかりません。だからこそ、「今、必要なこと」を丁寧に伝える。
誠実な姿勢こそが、譲渡の可能性を広げてくれると信じています。
おわりに
高齢で病気がある、馴れていない、人に懐かない—— そんな子たちにも、ちゃんとご縁はある。
大切なのは、「難しいから」と伝える前に、今その子がどう過ごしていて、どんな関わり方ならできるのかを、誠実に発信し続けることだと感じています。
とはいえ、実際の譲渡活動の現場では、悩みや迷い、課題も多くあります。
次は、「どう伝えれば、ご縁につながるのか」をテーマに、まとめていきたいと思います。
